地球化学的研究の紹介

本コースにおける研究スタイルの標準は、以下のようになります。

大気の研究

大気中のCO2、メタン、エアロゾルおよびその前駆体の研究は、都市域、森林、海洋上にて観測タワー、研究船、航空機などを用いて行われます。空気を野外で採取し、気体成分の濃度や同位体比、有機エアロゾルや鉱物粒子の組成分析を行っています。大気中に含まれるこれら気体成分は、温室効果気体として重要です。一方、エアロゾル粒子は、太陽光を吸収・反射し、地球の放射収支へ影響を及ぼします。更に、エアロゾルは凝結核として雲の形成に関与し地表を間接的に冷却する効果を持ちます。エアロゾルは、また、海洋生態系への栄養塩の供給という観点からも重要です。大気中におけるそれらの空間分布や時間変化を調べることにより、それらの物質がどこから放出されどのように運ばれてきたのかを明らかにすることができます。また、栄養塩の供給が海洋や陸の生態系と 物質循環に果たす役割を明らかにする研究に取り組んでいます。


↑苫小牧のカラマツ林とCO2フラックス観測タワー(高さ40m)。森林植生からのテルペンなど揮発性成分の放出や森林上空でのガスから粒子の生成を明らかにすることを目的に、タワーを用いた大気サンプリングを行いました。
 
↑航空機にガス・エアロゾルサンプラーを搭載し、日本海、東シナ海、太平洋上で東アジア起源の汚染大気を採取しました。


↑海洋エアロゾル中のシュウ酸(HOOC-COOH)の空間分布。アジア大陸近傍で高い濃度が測定され、東アジアからの水溶性有機物の寄与が大きいことが明らかとなりました。水溶性有機物は、雲凝結核として雲の生成と地球放射に重大な影響を持つ物質です。

主な関連教員(順不同):入野智久、宮崎雄三

土壌、河川の研究

陸上では、森林、湿地、河川において野外観測やサンプリングを行っています。非常に乾燥した気候帯に位置する東シベリアやモンゴルでは、温暖化による永久凍土システムの崩壊が、この地域の森林生態系に重大な影響を及ぼすことが危惧されており、永久凍土の水循環や植物の光合成・生産量などの野外観測を行っています。湿地はCO2に次いで重要な温室効果気体であるメタンの生成と放出の場であるとともに、そこから流出する河川は水とともに鉄や栄養塩などの物質を海へ運び、沿岸域での生物生産を支えていると考えられています。北海道内の湿地やアムール川を対象にメタンの観測や鉄や有機物の移行挙動、有機物の蓄積などの解明を目指しています。


↑森林ステーションに滞在し、土壌表面から大気に放出されるCO2量を測定しています。ガスを採取して持ち帰り、その同位体比も測定しています。
 
↑河川調査。採水だけではなく、ボートに乗って調査します。陸から海へ、河川は様々な物質を輸送しています。海に運ばれた物質は海洋生態系にも大きな影響を及ぼします。

主な関連教員(順不同):杉本敦子、山下洋平

海洋の研究

海洋での研究も、北太平洋、赤道太平洋、南大洋、オホーツク海、日本海など様々な海域で行われています。その内容は、海洋の物質循環を解明するための海水のサンプリングと化学分析、海洋生態系解明のための群集構造と動態の調査、海底への物質の輸送を測定するセジメントトラップ観測などです。海洋の物質循環が現在どのように循環し、また変動しているのか、そして、これらを支配する要因は何かを解明することを目指し、日夜、研究を進めています。


↑海水の採取。CTD-RMS装置を使い、表面水から深層水に至るまで24層の深度で海水を採取できる。海水温、塩分、溶存酸素をモニターでききます。
 
↑北太平洋西部海域における海洋CO2分圧の長期変動。季節変化や年々変動を繰り返しながら、大気からCO2を吸収し、海洋CO2分圧が増加しています。

主な関連教員(順不同):鈴木光次、西岡純、山下洋平、渡辺豊、亀山宗彦

古環境の研究

地球環境が過去にどのように変化してきたのか、海底堆積物、湖底堆積物、アイスコア、樹木年輪、サンゴ年輪、遺跡土壌などを用いて研究を行っています。樹木年輪とサンゴ年輪では季節あるいは年スケールの解像度で過去数百年間の古気候の復元ができます。新手法として注目されている安定同位体比を用いて、温度や降水量の高精度復元を目指しています。海底コア、湖底コア、アイスコアでは過去数十万年あるいは、それ以前にさかのぼり古気候の復元ができます。安定同位体比やバイオマーカーなどを用いて、大気海洋環境、陸上環境の変遷を明らかにし、全球的な気候変動の原因を解明することを目指しています。遺跡土壌や海底コアの分析から、人類活動の変遷を明らかにすることも重要なテーマです。


↑海底堆積物コアの採取。ウィンチで海底からコアを引き上げています。何千メートルもの海底からコアを採取するのは大変。「どうかうまく堆積物があがってきますように」


→茨城県鹿島沖で採取した海底コアの有機分子を分析することにより過去2000年間の水温を復元しました。平安時代に暖かく、江戸時代に寒冷であったことがわかりました。
 

主な関連教員(順不同):山本正伸、関宰、入野智久

ラボワーク

大気、陸、海洋での観測やサンプル採取の後は、ラボワークとデータの解析を行います。当コースでは、分光光度計、原子吸光光度計、赤外分光計、三次元蛍光分光計、元素分析計、質量分析計、ICP-MS、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどの最新の分析装置が揃っています。これらの最新の分析技術と応用方法を学び、フィールドで採取したサンプルの分析を行い、観測データとあわせて地球システムにおける物質循環過程や地球環境の変遷の研究を進めています。

 
↑苦労して採取してきた海水試料の分析。海水試料にリン酸を加え,海水に溶けているCO2を電量滴定装置で測定しているところです。。
↑シベリアで採取した大気 試料中CO2の同位体比を測定するため、空気からCO2を抽出しています。マイナス190℃の液体窒素で冷却することによりCO2を分離します。大気中のCO2の炭素同位体比は陸上生態系の光合成活動の結果、夏に高くなることがわかりました。