地球化学的研究の紹介

本コースにおける研究スタイルの標準は、以下のようになります。

生物・生態系の研究

自然界の生物・生態系は、絶えず環境の「不均一性(例えば,季節変化,よそ者の侵入,飢餓など)」に曝されながらも、一見すると、常に「安定的(普遍的・持続可能的)」に存在しているように見えます。しかし、そのような「安定」は、ほんの小さな綻びによって、一瞬にして崩壊するという「脆さ」も持っています。そして、その中で生物は「進化」しています。この「安定的」vs.「脆さ」は、どのように説明できるのでしょうか?また、そもそも生物圏において、誰が(Who, What)、なぜ(Why)、いつ(When)、どこで(Where)、どのように(How)、どれくらい(How many)存在しうるのでしょうか? そこに「進化」はどのように関わっているのでしょうか?・・・このような疑問(5W2H)に関して、我々は、採取もしくは飼育・培養した動植物を対象に、「有機化合物の安定同位体比」を測定し、物質循環とエネルギーの収支(InputとOutput)の側面からの定量的理解に挑戦しています。


↑地球上の生物圏は太陽からの光エネルギーを循環させることで成立している。
 
↑食物連鎖とアミノ酸の安定窒素同位体比(15N/14N)の関係。


↑アミノ酸の安定窒素同位体比(15N/14N)の解析により,食物連鎖における階層(栄養段階)構造を描くことができる。

主な関連教員:力石嘉人

大気の研究

大気中のCO2・メタンなどの温室効果気体、浮遊微粒子(エアロゾル)は、地球規模の気候変動を理解していく上で重要な因子です。温室効果気体の増加は地球温暖化に影響する一方、エアロゾルは太陽光を吸収・反射するとともに、雲凝結核として雲の形成に関与するなど、気候変動には大気組成の変化が深く関与していると考えられています。我々は、陸上や、海洋上で船舶等での観測により大気試料を採取したり、堆積物や氷床コアから大気起源物質を抽出し、気体成分・エアロゾルの化学分析を行うことで、大気の化学組成と変動の解析から地球環境問題をより深く理解し、その解決に向けた科学的根拠を提示することを目標とします。最近は、寒冷圏での陸域植生・海洋表層を起源とする大気成分を介した大気‐生物圏の様々な相互作用の解明に関連する研究に取り組んでいます。大気微量成分・エアロゾルの新たな測定・化学分析手法も確立しながら、大気組成の観点から炭素・窒素等の生物地球化学的な物質循環や気候変動へ与える影響の理解を目指します。


↑研究船に大気微量気体・エアロゾルの採取・測定装置を搭載し、海洋上の大気組成の研究を行っています。
 
↑森林ステーションでの大気観測。観測タワーに大気微量気体・エアロゾルの採取・測定装置を設置し、植生の種類や変動が大気組成や気候変動へ与える影響を研究しています。

主な関連教員(順不同):入野智久、宮崎雄三

陸の研究

陸上では、森林、湿地、河川において野外観測やサンプリングを行っています。東シベリアの北極域やタイガ林、モンゴルでは、温暖化による永久凍土システムの崩壊が、この地域の生態系に重大な影響を及ぼすことが危惧されており、永久凍土の水循環や植物の光合成・生産量などの野外観測を行っています。湿地は二酸化炭素に次いで重要な温室効果気体であるメタンの生成と放出の場です。東シベリアの湿地では、メタンの観測を行うと同時に、衛星から得られる植生の情報を組み合わせ、広域でのメタン放出量の見積もりも進めています。河川は水とともに鉄や栄養塩、有機物などの陸の物質を海へ運び、海の物質循環(生物地球化学的循環)や生態系に影響を与えます。主に北海道内の河川を対象に土壌から河川への物質の移行挙動、河川や湖などの陸域水圏内での物質循環の解明を目指し、観測を行っています。


↑タイガ-ツンドラ境界生態系での観測。
 
↑河川調査の様子。橋や岸からの採水だけではなく、時にはボートに乗って、湖や河川の調査もします。

主な関連教員(順不同):杉本敦子、山下洋平

海洋の研究

北太平洋、オホーツク海、ベーリング海、日本海、北極海、南大洋など、様々な海域で研究を行っています。海水などを採取し、化学・生物成分を最先端手法で解析することにより、海洋の物質循環(生物地球化学的循環)過程とその時空間変化を定量的に明らかにすることを目指しています。海洋物質循環を駆動する植物プランクトン、生物生産を支配する栄養塩や微量金属、地球温暖化に重大な影響を及ぼす二酸化炭素、メタン、硫化ジメチル等のガス、海洋炭素プールの大部分を占める溶存有機物などを主な研究対象としています。


↑CTD-CMS装置。海水温、塩分、水深の他、溶存酸素濃度、クロロフィル・溶存有機物の蛍光強度などの生物地球化学パラメーターも採水と同時にモニターすることが可能となっています。
 
↑北太平洋における溶存鉄濃度の分布と供給過程。西部北太平洋には縁辺海から鉄分が移送されて生物生産に寄与している可能性があります。

主な関連教員(順不同):鈴木光次、西岡純、山下洋平、渡辺豊、亀山宗彦

古環境の研究

地球環境が過去にどのように変化してきたのか、海底堆積物、湖底堆積物、アイスコア、樹木年輪、サンゴ年輪、遺跡土壌などを用いて研究を行っています。樹木年輪とサンゴ年輪では季節あるいは年スケールの解像度で過去数百年間の古気候の復元ができます。新手法として注目されている安定同位体比を用いて、温度や降水量の高精度復元を目指しています。海底コア、湖底コア、アイスコアでは過去数十万年あるいは、それ以前にさかのぼり古気候の復元ができます。安定同位体比やバイオマーカーなどを用いて、大気海洋環境、陸上環境の変遷を明らかにし、全球的な気候変動の原因を解明することを目指しています。遺跡土壌や海底コアの分析から、人類活動の変遷を明らかにすることも重要なテーマです。


↑海底堆積物コアの採取。ウィンチで海底からコアを引き上げています。何千メートルもの海底からコアを採取するのは大変。「どうかうまく堆積物があがってきますように」


→茨城県鹿島沖で採取した海底コアの有機分子を分析することにより過去2000年間の水温を復元しました。平安時代に暖かく、江戸時代に寒冷であったことがわかりました。
 

主な関連教員(順不同):山本正伸、関宰、入野智久

ラボワーク

大気、陸、海洋での観測やサンプル採取の後は、ラボワークとデータの解析を行います。当コースでは、分光光度計、原子吸光光度計、赤外分光計、三次元蛍光分光計、元素分析計、質量分析計、ICP-MS、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどの最新の分析装置が揃っています。これらの最新の分析技術と応用方法を学び、フィールドで採取したサンプルの分析を行い、観測データとあわせて地球システムにおける物質循環過程や地球環境の変遷の研究を進めています。

 
↑苦労して採取してきた海水試料の分析。海水試料にリン酸を加え,海水に溶けているCO2を電量滴定装置で測定しているところです。。
↑シベリアで採取した大気 試料中CO2の同位体比を測定するため、空気からCO2を抽出しています。マイナス190℃の液体窒素で冷却することによりCO2を分離します。大気中のCO2の炭素同位体比は陸上生態系の光合成活動の結果、夏に高くなることがわかりました。

軽元素の安定同位体比の測定と分析法開発

水素,炭素,窒素,酸素には,同じ元素であっても質量の異なる安定同位体(1H・2H, 12C・13C,14N・15N,16O・17O・18O)が存在します。そして,これらの同位体の存在比は,その質量差に起因して,自然界で起こる様々な物理化学・生化学的なプロセスの中で,反応特異的に変化しています。従って,それらの存在比や変化率は,地球環境や生態系で「過去に何が起こったのか?」「現在,何が起こっているのか?」を定量的に読み解く指標になります。我々は,水や有機物(有機化合物)を対象に,これらの同位体比を高精度で測定し,生物地球化学分野の様々な課題に取り組んでいます。また,研究課題の本質的な解明に必要な新規分析法の開発にも力を入れています。


↑地球における安定同位体の平均存在量,および,自然界でのバリエーションの概略図

↑植物の安定炭素同位体比を変化させる要因の概略図:植物が作り出す有機物の同位体比は,原料(基質)の同位体比,同位体分別(ε:13C/12Cの変化率),生成物の生成・分解反応におけるフラックス(何%の炭素が移動したか)で決まる。